ごあいさつ

令和元年 吟剣詩舞道大会のごあいさつ

毎年、この時期になると昭和四十年(一九六五年)に編纂された『風雪七十七年〜篠田桜峰翁の人間と芸術』を本棚から引っ張り出してペラペラと読み返しては、北辰神桜流の歴史に思いを馳せます。

流祖である篠田桜峰(薫)は明治二十年(一八八七年)に生まれ、大正元年(一九一一年)二十四歳で名古屋に仮道場を設立、その後「薩摩の地へ雄飛」とあります。
鹿児島市高見馬場の地に「北辰神桜流神桜館道場」を構えたのが、大正十三年(一九二四年)三十七歳のときでした。

その後、昭和十二年(一九三七年)五十歳で名古屋市中区老松町に神桜館道場を設立します。

吟剣詩舞の演舞や指導で全国各地に名を轟かせていた昭和二十九年(一九五四年)六十七歳のときに、中京地区の門下生と後援者グループの援助によって、(これも驚きだが)名古屋市との共催で金山体育館を会場に「桜峰中京再進出記念詩武道大会」が大々的に開催されました。
それが契機となって、以来恒例的に「全国覇権者詩舞道大会」が毎年開催されるようになりました。

それから十年後、七十七歳の時に編纂されたのがこの本で、昭和四十年(一九六五年)当時、「大久手の本部道場門下生五百人余、支部出張講習の門下まで含めると実に総勢二万人に及ぶ」とあり、その想像を絶する規模に驚きます。

単純に時計を逆算すれば、鹿児島で初めて「神桜館道場」として看板を掲げてから九十五年。さらにこれほどにも長期間にわたって開催され続けている舞台イベントは、全国でも相当珍しいことでしょう。

毎年創意工夫を重ね、バトンを渡すように継承されてきたものが当流の「伝統」。
この「伝統」を謙虚に受け継ぎ、そして次の世代に渡していく、それがこの大会開催の最重要の意義です。

また、時代の変遷、人々の嗜好の変化、吟剣詩舞道を取り巻く環境の変化、会員人口の高齢化…、隔世の感は否めませんが、「平成」から「令和」とまたひとつ時代は進みました。
すでに始まった新時代に向けて、橋渡しをする節目の年でもあります。

経済効率最優先で、あらゆるもののボーダレス化、グローバル化が進み、個性は洗い削りとられ、一斉に等質化されようともしている。
そんな時代だからこそ、長きにわたって愛され支持されてきた吟剣詩舞という伝統文化の価値はますます光り輝くと信じたい。
だからこそ、まだ気づいていない人にもその価値を伝えたい。この大会のもうひとつの意義はここにあります。

皆さまの日頃の研鑽の成果発表の貴重な機会。
今年も無事開催されますこと、また、準備に奔走された皆さまには、心よりの御礼を申し上げます。
そして、当流の「今」が凝縮されるこの大会に大いに期待をしています。

北辰神桜流宗家 篠田桜峰

 

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