ごあいさつ

宗家ご挨拶

平成30年度 吟剣詩舞道大会にむけて

北辰神桜流 流祖
篠田桜峰

 MLBの大谷選手、将棋界の藤井七段、サッカー日本代表…「型破り」な若者が登場するたびに、ワクワクさせられます。この場合の「型破り」とは、今までの常識ではあり得ないほどの成果を出す、という意味で語られます。

「型破りとは型があればこそ。型がなければただの型なし。」

伝統芸能においての革新的な試みについて、よくこんな言われ方をします。受け継がれてきた伝統的な技術をベースにして初めて革新的な試みが「型破り」として認められる、と言い換えられましょう。

最近目撃した歌舞伎界のチャレンジに、大いに刺激を受けました。それは、「古きをたずねる」アプローチと今までにないものを受け入れることで起こる化学反応で革新を起こす。いずれも両極端の「型破り」な試みです。

ご存知、通称「こんぴら歌舞伎」。四国の香川県琴平町にある日本最古の芝居小屋「金丸座」(1836年設立)は長年使用されることもなく埋れていました。それをテレビ番組の収録をきっかけに、1985年、当時5代目中村勘九郎がこの小屋の復活を切に望み、多くの地元民や歌舞伎界を動かして見事に復活させた昔ながらの芝居興行です。今では四国路の春を告げる風物詩として毎年開催されており、満員御礼、地元民がチケットを買うこともできないほどの大盛況です。

片や、毎年東京渋谷で開催される「コクーン歌舞伎」。今回の物語は歌舞伎を元とするものの、歌舞伎役者だけでなく現代劇の俳優も混ぜ、会場中を駆けずり回って観客を沸かせます。音楽はピアノとウッドベースとパーカッションのジャズ風アレンジ。CGも使用した舞台照明も美術もエッジを効かせた実にカッコいい異空間は浮世離れするのに十分でした。

頑なに伝統の型を継承すると思われている能楽の世界においても進化があるようです。

世阿弥は伝統をそっくり継承していくための仕組みを創ったと言われますが、能のテンポは、実は時代によって異なるのだそうです。その時々の観客と時代の空気を前に、それまでの方法にとらわれないで初心にかえることで生まれてくる変化を受け入れる。つまり、伝統とは「型」を丸ごと継承するのではなく、精神、魂を受け継ぎながら、進化をさせていくべきもの、ということなのでしょう。

ひるがえって吟剣詩舞道のチャレンジはどうか。

個性が漂白され、文化を含めてあらゆるものが均質化してしまうこの時代において、大切なものは守りつつも、きっと変化も求められているのだと思います。

昭和13年に第1回大会を開催してから、戦中戦後の一時期を除いてほぼ毎年、創意工夫を重ねながら、バトンを渡すように継承されてきたこの大会こそが当流の「伝統」。

「進化」への工夫、次世代へのメッセージ、未来のための底辺を広げる試み…。

当流の「今」が凝縮されるこの大会を今回も大いに楽しみながら、次の時代に思いを馳せてみたいと思ってます。

北辰神桜流
三代目宗家 篠田 桜峰

 

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